駆け抜ける歓び

1994 BMW318is

いやあ、ゴルフは最高の伴侶だなあ。と言いつつ私のアシグルマはいつの間にかBMWになっていました…

そろそろ皆さんにその顛末をお話しなければいけません。

いつものように私は、なけなしの金をはたいて、M自動車に未払いの修理代金を入金しに行きました。

軽くなった財布に少し憂鬱になりながら、なにげなく駐車場の片隅を見ると、そこにはBMW318がうずくまっていたのです。そのクルマはモーリシャスブルーという地味なブルーメタの衣装をまとい、夕闇の中にひっそりとたたずんでいました。

おお、E36か。どうやらクーペのようだな…

私は一瞬だけそのクルマに興味を寄せましたが、自分には縁のないものと決めつけ、その場を立ち去ろうとしました。

その時、M自動車のオーナーがこう言って私を呼び止めたのです。

「程度の良いマニュアルのクーペが入ったよ。しかも凄く珍しい白の革張り。見ていく?」

思えばその日は、悲しい程美しい夕暮れと悲しい程軽くなった財布が私の心をメランコリーにしていたのかもしれません。

私はキーを受け取り、ドアーをゆっくりと開けました。

真っ先に私の目に飛び込んで来たのは、黄白色の室内灯に照らされた、いかにも居心地の良さそうな白い本革シートでした。

私は胸の奧に熱くこみ上げるものを押さえる事ができませんでした。

あああ、私が本当に望んでいたものが今、ここにある…

私は自分の中に冷静さを取り戻そうとして、細部を観察する為、後席に目を移しました。

しかし、後席シートは使用した痕跡もなく、新車の輝きを彷彿とさせました。冷静になろうという私のもくろみはもろくも敗れ去ったのです。

一瞬、マニュアルシフトをコクッコクッと小気味良く操作しながら、白革シートに身をゆだねる自分の姿が脳裏によぎりました。格好良い…

残念ながらゴルフではそういうイメージが湧く事はありませんでした。新車価格の4分の1以下になっても流石はステータスカーBMWです。

この318isのマニュアルシフト仕様、実を言いますと1993、4年頃でしたか。新車時にすごく欲しかったクルマなんです。

そう、あの頃、憧れていた、山の手のリッチな外車オーナーになれる時が遂にやって来たのです。

25万円もするオプションの革シートを注文した上に、ここまで程度良く保ってくれた前オーナーに感謝しなくてはいけません。まあ、でも9年落ちというのはいくらなんでも待ち過ぎですね、あやうく出がらしになる所でした。

E36がデビューした時、前任のE30に較べてインテリアの樹脂の質感が落ちたなあと思ったものでしたが、中期以後は質感も向上してきたようです。

前オーナーは革張りマニュアルのBMWという車種を選択するようなエンスージャスティックな方なのに、いや、だからこそというべきか、ケミカル剤で室内をテラテラに磨き立てるようなゲスな真似は一切しなかったようです。

あたかも「ル・ジタン」の頃のアラン・ドロンの頭髪のように油っ毛のないセクシーなインテリアです。

ああ、早く購入して、ホームセンターの安売りセールで買ったケミカル剤で磨き倒したいなあ。

で、実際、購入してどうだったかは次だ!

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