信頼できるアシ、しかもシトロエン。そんな夢みたいな話があるんです。

1994 CITROEN XANTIA SX
私の買ったエグザンテイアは初期型のSX。上級のV−SXより乗り心地が柔らかく。昔ながらのシトロエンの味を持っているという評判が決め手だった。しかも左ハンドルのサンルーフ付きという好ましい仕様。結構気合いが入っていたんだなあ。

エアコンの利き度数
※※(真夏はつらいかな?)          ※5つで満点

自由が欲しい、開放感が欲しいと2CVに乗っていたのだが、あまりのプリミテイブさに少々疲れてきた。
ふと、隣を見ると、幸せそうなファミリーがカローラだかコロナやらでエアコンをガンガン利かせて快適そうに移動しているではないか。おお、これだ!私が求めて止まなかった本当の幸せはまさにそこにあるのではないだろうか?年齢も30後半になってすっかり体力も落ちたことだし、ついつい、弱気になってしまう私であった。

それでもやっぱり、シトロエンが好きな私は手始めにBXの中古を探した。昔は全然興味のなかったBXだがいろいろなシトロエンに触れるうちに、スタイルは角張っているけどこれも純粋なシトロエンであると思い始めていた。
当時はBXの販売が終了した直後でデイーラーによっては新車の在庫が残っていた。田無のユーノス店にあった赤いBX16TZIは今でも忘れない。カジュアルな感じが気に入って欲しかったのだが、右ハンドルでサンルーフのない事や、なんといっても値段がネックになって購入には至らなかった。だから、今でも赤いTZIを見ると胸がキュンとするのだ。キュンと。

2CVの次のクルマを物色して半年近く経過しただろうか。仕方なく私はアルファロメオのジュリアTIをアシ代わりにしていた。エアコンどころか、ヒーターさえも故障していたジュリアに真冬に乗ると、エボナイトのステアリングの冷たさがひどく身にしみて、凍える思いをした。その上、メーターの照明は極めて暗く、旧車の心細さを満喫する毎日だった。


その頃、シトロエンのニューカー、エグザンテイアは発売から半年あまりが過ぎて低金利キャンペーンをやっていた。
ベルトーネデザインのこの形、いいスタイルだよなあ。内装も質感が上がってBXとは雲泥の差だし。信頼性も劇的に上がっているんだって。
フラフラとデイーラーに出向いて、豪華この上ないエグザンテイアのインテリアに納まる。ああ、いいなあ。このクルマを買ったらオイルの匂いとバッテリー上がりに悩まされる事もなく楽ちんにドライブできるんだろうなあ。とつい夢心地のままローンの試算をして気が付いたら購入していた。きっと私の体がそういう心地よさを欲していたのだろう。
その為に2台のアルファロメオを処分しなければいけなかったのは辛かった。だが、今思い出したが、私が古いクルマを手放した本当の理由は別にあった。当時、排ガスのNOX規制が強化され古い4ナンバー車は都心では新規に車検を受ける事が出来なくなっていたのだ。幸い乗用車の5ナンバーは対象外であったが、それも時間の問題であるという風潮だった。あのバブル期、投機目的でヒストリックカーが盛んに輸入されていた頃から数年しか過ぎていないというのに…時代は旧車にとって逆風に変わっていたのだ。

話をエグザンテイアに戻そう。実際に所有してみると、これぞシトロエンという個性は薄いが本当に良いクルマである。
やたらと車種をいっぱい持つ国産メーカーの場合、メーカーがあまり力を入れてない車種というのがどうしても存在してしまう。そんなクルマに乗るとメーカーの力を入れなさ具合が伝わってきて、なんとも切ない思いをする。その点、エグザンテイアはなんと言ってもシトロエンの主力車種、ハイドロニューマチックの正統な継承者なのだ。
どこを見ても手を抜いた所は見られないのが頼もしい。

運転しても疲れないので自然と遠くまで足を延ばすようになり、純粋にドライブを愉しむ事ができた。古いクルマってコンデイションを整える為に定期的に乗ってやらねばならない。それってほとんど義務的なもので、なんか本末転倒のような気もする。

趣味性がない、個性が薄いとぼやきながらもエグザンテイアは4年程乗って水没事故に会った。
乗り換えが必要になった時、いろいろと候補はあったが悩んだ末、再びエグザンテイアを選んだ。
この乗り味の良さ、使い勝手の良さが身についたら容易に他のクルマには浮気できなくなるようだ。それはまさに、カーグラフィックで小林エデイターがいつも書いているように…