1976y ALFA ROMEO ALFETTA
同時期の日本車ではあり得ない位、前輪のトレッドが張り出して誠に良いバランス。元来ならバンパーにゴムのオーバーライダーが付くがスポーテイでないので外したようだ。 76年頃には中央の盾グリルが幅広になるなど若干の外観の変更が入る。

リーゼント頭が似合う友人A(仮に彼の事をエルビスと呼ぼう)は、全くクルマに興味が無かったが、上手くだましてアルファロメオを購入する決意をさせるに至った。彼の理想は1750か2000のベルリーナだったが予算の都合上、それは困難だった。困窮した私たちは、ある筋ではおおいに有名な松本のY氏から、激安のアルフェッタセダンがあるとの情報を入手した。
エルビスはアルフェッタのスタイルが好みでないと難色を示したが、またも上手くだまして、とりあえず松本まで現車を見にいく段取りとなった。
正直なところ、写真を見る限りでは、アルフェッタのスタイルは平凡に思えて私も好きになれなかった。しかし実物を見ると日本車にはないクリーンなデザイン、何よりもウエーバーツインの野性的な咆吼にいたくしびれてしまった。後は迷うエルビスの背中をちょっと押すだけで事は済んだ。
彼が晴れて購入を決めた時、善行を行った後の清々しい爽快感が春風のように私の中を通り過ぎていった事は、改めてここに記すまでもないだろう。

そのクルマはアルフェッタとしては初期型にあたる1800のキャブ仕様だった。事前にカーグラ選集などを読んで、51年規制以後の型はパワーが削がれて魅力が無くなっていくのはわかっていたので初期型しか眼中になかった。アルフェッタが錆びに極端に弱いのは有名な話で、古今東西錆びやすいクルマベスト10を選ぼうとしたら、アルフェッタとスッドは必ずや名前が挙がるに違いない。エルビスのクルマもご多分に漏れずフロントとリアのウインドー周りに穴が開いていた。しかし、それ以外に目立った腐りは見あたらず、オリジナルのカラシイエロー(CGの小林エデイターが当時乗っていた仕様そのものだ!)の塗装も充分に艶があった。雨の少ない松本で保管されていたからまだこの程度で済んだのだろう。

ウェーバーを付けたエンジンが気持ちよい事はジュリアでも一緒だからここでは触れない。
アルフェッタで最も印象的なのはトランスアクスルに起因する長所と短所である。長所としてはまず、ハンドリングが優れている点が挙げられる。ここだけを比べると、ジュリアがひどく時代遅れに思えてしまう程そのフィールは秀逸だ。ミッションが前にない事で重量バランスが優れている事も要因だろう。だが、近年の雑誌記事で、アルフェッタがトランスアクスルを採用した本当の理由は、居住性を重視した結果であったと知った。

実は一番印象深いのは短所の部分である。まず、後ろから長いリンケージを介しているが故、ミッションの感触がことの他悪い。極悪と言ってもいいだろう。車齢15年以上の彼のクルマは尚更である。しかし、この欠点は日を追う毎に改善され、トランスアクスルの最終形態とも言うべきSZでは全く問題がないという。今度試してみたいものだ。
もうひとつは激安ノーメンテナスの彼のクルマ特有の症状だろうから、欠点として挙げてはアルフェッタが気の毒かもしれない。走行中、車体中央を通るプロペラシャフトがカップリングの劣化によって大きく揺れて、フロア下をデンデン叩くのである。これは生きた心地がしない。いつ何時、錆びて腐ったプロペラシャフトがまっぷたつに折れて、床を破ってドライバーを串刺しにするか気が気ではなかった。まるでオカルト映画である。
ということでエルビスのアルフェッタは、デンデン太鼓という有り難くないニックネームを頂戴することになった。

その他、外観ではヴィタローニのミラーを装着したのが変更点。ホイールは後期のアルフェッタ用のものだが購入時から付いていた。